医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストとデータ保護

サイバー攻撃の巧妙化と被害の拡大により、病院など医療機関ではシステム障害が診療停止や地域医療の混乱につながるリスクが高まっています。こうした状況の中、厚生労働省の「令和7年度版サイバーセキュリティ対策チェックリスト」は、現場で実践できる具体的な対策を示す指針として重要性を増しています。ここでは、このチェックリストの要点と、データ保護を両立させるための実践的な取り組み方を整理します。

なぜ医療機関にはサイバーセキュリティ対策とデータ保護が同時に必要なのか

医療機関では、サイバー攻撃の防御と情報の保護を切り離して考えることはできません。 ランサムウェアで電子カルテが暗号化されて使えなくなれば診療が止まり、救急や手術にも影響が出ます。さらにバックアップやデータ復旧の体制が不十分だと、復旧遅延や個人情報漏洩のリスクも高まります。 攻撃を防ぐ対策と、確実にデータを復旧・保護する仕組みを同時に整えることが、医療を止めない唯一の方法です。

医療情報の特殊性と攻撃リスク

医療機関が扱う情報は極めて重要かつ機密性が高く、漏洩やシステム停止は診療停止や信頼失墜に直結します。 近年のランサムウェア攻撃は身代金をとるために、データを人質に取り診療を止めることで身代金を要求することが中心であり、患者の個人情報目当てではありません。医療現場は診療停止の影響が大きく、支払いに応じざるを得ないケースもあるため、攻撃者にとって標的となりやすい背景があります。

なぜ医療機関が狙われるのか?その理由と被害事例

特に中小規模の医療機関ではIT体制が脆弱で、古いシステムや更新の遅れが残りやすい傾向があり、侵入リスクが高まります。実際、全国の病院でランサムウェア攻撃による外来診療停止・救急受け入れや手術の停止につながる被害が相次ぎ、地域医療に影響を及ぼしています。

こうしたランサムウェアによる被害事例から学ぶと、ネットワーク分離やデータバックアップ対策の強化などの基本対策を早急に整備することが必要と分かります。

法令・ガイドライン遵守の重要性

 厚生労働省のガイドラインやチェックリストは、医療機関が守るべき標準的な基準です。 二要素認証やUSB制限など具体的な対策が求められ、未対応のままでは行政指導や立入検査の対象となる可能性もあります。これらの基準を満たすことは、単なる法令遵守にとどまらず、診療の継続と社会的信用を維持するための実践的な手段といえます。

令和7年度版チェックリストの押さえるべき主要ポイント

厚生労働省が示す「令和7年度版医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001450189.pdf)」は、医療機関が現場レベルで実行できるサイバーセキュリティ対策を明確化した実務指針です。システム管理だけでなく、教育や体制整備を含めた総合的な対策が求められています。ここでは、改訂の背景と各カテゴリに沿った実施ポイントを解説します。

チェックリストの目的と改訂の背景

令和7年度版のチェックリストでは、現場での実行性を重視し、医療情報システム安全管理責任者の設置や、サーバ・端末・ネットワークごとの管理体制の明確化など、基本構造の整備が求められています。また、USBメモリ等の外部記録媒体の接続制限、パスワードの強度(8文字以上・定期変更)など、日常業務で実践しやすいルールも整理されています。さらに、バックアップ対策の安全な保護や多層防御の仕組みを組み込むことも推奨されており、単なる復旧手段ではなく、攻撃後の被害拡大を防ぐ対策といえます。

体制構築・職員研修に関する項目

セキュリティ対策は技術面だけでなく、組織的な体制づくりと職員の意識向上が欠かせません。チェックリストでは、医療情報システム安全管理責任者の設置や、サーバ・端末・ネットワークごとの管理責任の明確化が求められています。また、職員に対する情報セキュリティ教育・訓練の実施と、その記録の保存が確認項目として示されており、定期的な教育を通じた意識定着が重要とされています。

医療情報システムとネットワークの管理

診療や事務を支える情報システムの安全運用は、日々の診療継続に直結します。令和7年度版のチェックリストでは、アクセスログの管理、不要なソフトウェアやサービスの停止、ネットワーク分離、端末やサーバの暗号化などが重点項目として示されています。また、USBストレージなど外部接続機器の使用制限や、リモートメンテナンスの適正化(不要な遠隔接続の禁止)も明確に定められています。これらの対策を実施し、データ復旧を含めたシステム全体の耐障害性を高めることが、診療継続の鍵となります。

チェックリストと一体で進めるデータ保護の実践

サイバーセキュリティ対策チェックリストを運用しながら、診療データの安全管理・保管・復旧を日常業務にどう組み込むかが重要です。この章では、院内体制の整備から情報管理の運用、電子カルテやクラウド環境の安全確保まで、現場で実践できるデータ保護の要点を整理します。

診療データ・個人情報の保護体制をどう築くか

診療データを安全に扱うためには、まず組織としての管理体制を明確にすることが出発点です。チェックリストでは、アクセス権限の細分化やログ管理、退職者のアカウント削除、外部委託先との契約見直しといった具体項目が挙げられています。これらを院内ルールとして明文化し、職員全体で共有することで、情報保護の意識を定着させることができます。

チェックリストと連動した医療情報管理の進め方

チェックリストは、情報管理の抜け漏れを防ぐ実務ツールとして機能します。たとえば、サーバや端末で不要なソフトウェアを停止する、アクセスログを定期的に点検する、ネットワーク機器の接続制限を行うなど、日常業務に直結する対策が多く含まれています。各項目の対応状況を定期的に確認・更新することで、セキュリティ体制の維持と行政対応の両立が可能になります。

電子カルテ・端末・クラウドの安全性確保

診療業務に欠かせない電子カルテや業務端末、クラウド環境は、常に安全な状態で運用される必要があります。チェックリストでは、OSやソフトウェアの更新、クラウドサービス契約内容の確認、バックアップおよびデータ復旧対策の実施、そしてUSB接続やリモート接続の制限が求められています。

データのバックアップ対策を実効的に行うには、信頼性の高いバックアップソリューションの導入が効果的です。これにより、定期的な自動バックアップ、データの複数世代管理、そして異なる環境(オンプレミス/クラウド)への復旧が容易になります。さらに、バックアップデータを安全に保管し、改ざんや削除を防ぐ仕組み(イミュータブル化)を導入することで、ランサムウェア対策として攻撃時の復旧力と防御力の両方を高められます。これらの多層的な対策を組み合わせることで、マルウェア感染や個人情報漏洩のリスクを大幅に軽減し、安全性を確保できます。

まとめ:サイバー攻撃対策を強化した医療体制を築くために

医療機関におけるサイバーセキュリティ対策は、単なるシステム保護にとどまらず、診療を止めないための社会的責務といえます。

令和7年度版サイバーセキュリティ対策チェックリストは、現場で実行可能な具体策を体系的に示した実務指針であり、職員教育や体制整備を通じて運用レベルでの定着が求められます。

さらに、データの保管・復旧・改ざん防止を含む多層的なバックアップ体制を整えることで、ランサムウェア攻撃などの脅威にも強い医療環境を構築できます。

サイバーセキュリティとデータ保護を両輪として進めることが、医療の継続性と信頼を守る最も確実な道です。

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