西園寺公望を学祖とし、1900年に中川小十郎によって設立された京都法政学校を前身とする立命館大学。現在では立命館大学、立命館アジア太平洋大学(以下、APU)の2大学と5附属校を擁する総合教育機関として、次世代を担う人材の育成を推進している。また、「R2030 挑戦をもっと自由に」の学園ビジョンのもと、教育・研究・大学運営のDXをはじめとした様々な施策を展開中だ。
同大学の学内情報基盤を担っているのが、情報システム部 情報基盤課である。同課ではインフラ環境の整備・拡充を継続的に実施しているが、その中でもデータ保護には細心の注意を払っている。同課 課長補佐の谷村 昇氏は「本学のシステムでは約5万人にのぼる学生・生徒・児童の個人情報が管理されています。本システムが機能しなくなると、授業が行えず成績を付けることもできません。もし入試シーズンに障害が発生した場合には、受験生の人生に影響を与えてしまう可能性があります。多額の経済的損失が発生するだけでなく、大学としてのブランドも大きく毀損してしまいます。そのため、データ消失は絶対に許されません」と強調する。
こうした中、今回実施されたのが、学内の重要情報を保護するバックアップシステムの再構築である。谷村氏は「本学では2015年の基盤更新時、個々の業務システムごとにサイロ化されていたバックアップの統合化を実施しました。立命館大学・APU間での相互レプリケーションも開始し、抜本的な改善を図りました。しかし、その後運用を続けていくうちに、様々な問題が顕在化してきたのです」と振り返る。たとえば旧環境ではNASのデータ転送にNDMPを用いていたため、対向拠点側にも同じ製品がないとデータを取り出せなかった。また、CIFSのバックアップにも非常に時間が掛かっており、既定のバックアップウィンドウ内に収まらなくなっていた。「しかもNASのバックアップに永久増分の機能がなかったため、2週間~1ヶ月おきにフルバックアップを取り直さなくてはなりませんでした」と谷村氏は語る。
また、運用面だけではなく、コスト面でも検討が必要な状況に直面していた。バックアップ容量の増加や製品のバージョンアップに起因した費用負担が懸念となり、同製品での更新が難しい状況だったのである。そのため、2021年の基盤更新を機に、新たなバックアップソリューションの導入を検討することになった。
次期ソリューションの選定にあたっては、ガートナー社の調査「マジック・クアドラント」でリーダーに位置付けられた主要なバックアップ製品を対象に綿密な比較・検討を実施。その結果新たに導入されたのが、「Veeam Backup & Replication」(以下、Veeam)である。谷村氏はその理由を「前述の課題をすべて解決できる製品であることに加え、周囲のSIerの評価が非常に高かったのです。また、何か疑問点があれば、Veeamから回答が届くサポート体制に安心感を覚えました」と説明する。
Veeamによる具体的なバックアップ対象としては、まず立命館大学の学務システム、ならびに全学統合サーバー基盤が挙げられる。後者にはインターネット基盤、事務システム、教育研究システム、図書館システム、附属校向けシステム、各部門システムなど、約50システム、300VMが集約されている。また、APUでも、事務システム、教育研究用サーバー基盤のバックアップをVeeamで実施。加えて、両大学間での相互レプリケーションも行われている。
「バックアップシステムをVeeamで刷新したことで、これまで抱えていた課題はすべて解消しました。ユーザーインターフェースも大変シンプルでわかりやすいうえ、サポートだけではなく営業担当やSEに不明点を質問することもできるので、すぐに疑問を解決できます」と谷村氏は満足げに語る。新旧バックアップ環境で5年分の維持費用を比較したところ、製品の保守や作業に掛かる費用を約64%削減できるとの試算が得られた。「しかも、この中にはバージョンアップやリプレースに伴う費用は含まれていませんので、10年スパンで比較するとおそらくもっと下がると思われます」と谷村氏は語る。
加えて、もう一つ見逃せないのが、新旧サーバー基盤の移行ツールとしてもVeeamを活用した点だ。今回の更新では、それまで3 Tier構成で構築されていた全学統合サーバー基盤のインフラをハイパーコンバージド・インフラストラクチャ(以下、HCI)製品にリプレースしている。これに伴い、両基盤間でのVM移行が必要になったが、そのためのツールとしてもVeeamを用いたのだ。
「設計作業を行っている最中に、エンジニアから『Veeamでも移行できますよ』と教えてもらったことがきっかけです。そこで他の移行方式と比較してみたところ、Veeamによる移行はメリットが大きいことが分かりました」と谷村氏は語る。新旧サーバー基盤間のVM移行ではVMware標準のvMotion/Storage vMotionを利用するケースも多いが、この場合は切り替え当日の作業時間が読めず、切り戻しもできない。HCI製品が提供する移行ツールならこの点は問題なかったものの、移行準備期間中はバックアップが取得できない点がネックとなった。
「その点、Veeamの『計画フェイルオーバー』機能を利用すれば、準備期間中も通常通りバックアップが行えるうえ、新基盤が稼働してからフェイルバックすることもできます。おかげで新旧基盤間のVM移行をスムーズに、かつ安心して進めることができました」と谷村氏は語る。過去のプロジェクトでは、様々な部門と調整しながら個別に移行作業を行う必要があったため、全システムが移行を終えるまでに2~3年掛かることもあった。その点、今回の基盤更新では、計画フェイルオーバー機能の活用により、約9ヶ月で50システム・300VMの移行を完了。「移行回数は100回近かったものの、当日の作業自体はジョブの切り替えと確認くらいだったので、作業負荷も大幅に軽くなりました」と谷村氏はその効果を語った。
さらに、同大学では、今後のクラウドシフトに向けてもVeeamの活用を進めていく考えだ。「本学では情報基盤のハイブリッドクラウド化を進めており、将来的には複数のクラウド間でシステム/データの移行を行うケースも考えられます。Veeamであれば、こうしたマルチクラウド環境下の運用管理も一元的に行うことができます。また、最近ではSaaSに大量のデータが蓄積されているので、これを保護するためのツールとしても活用を検討していきたいと考えています。こうした取り組みを通して、学内の重要なデータを守る役目を果たしていきたいですね」と谷村氏は展望を述べた。
・安定的なバックアップ運用と2大学間の相互DR環境を構築
・バックアップシステムの保守コストを約64%削減
・新旧全学統合サーバー基盤間での安全・確実なVM移行を約9ヶ月で実現